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20.08_10-8.10.11.12.13.16.18.20.01.26.27.31.33.35

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新しい現場に入りました。着いてからすぐに、「お茶にしましょう」とご夫婦が中へ入れてくれました、玄関は土間で、外と中の中間のような空間でした。もともと家事場も台所も土間だったそうですが改装し、天井もつけたそうです。8時になると奥の部屋から振り子時計のゴーンゴーンという音がしました。昭和初めの時計で、毎日ぜんまいを巻いているそうです。庭にはいろんな種類の花が咲いていて、どの葉も元気そうに見えました。

二人の作業を覗きながら次に必要なものを考えていると、渡辺さんに「結んで結んで」と言われて、私も2人の作業に混ぜさせてもらいました。おしぼくを縄で結び(以前から練習中)、3人並んで縄を持ちながら足で締めることを初めて行いました。江戸さんに「よだれ垂らしそうな顔してたよ」と言われました。このお宅が江戸さんにとって初めて屋根に登った現場らしく、私も少しですが、職人と一緒に同じ作業をさせてもらうことになりました。

(帰りは風が気持ち良くて窓を全開にして、ラジオの音楽と外の景色を満喫した。)


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朝いつもより早くに風土記の丘に着きました。現場がない日はまず事務所や売店の清掃から始まるのですが、私が出勤するより先に所長や渡辺さんたちが曲り家の囲炉裏で火を焚いています。この日は初めて私も一緒に火を囲みました。茅葺屋根は竈門や囲炉裏の煙があることで長年腐らずに使い続けることができます。曲がり屋は煙出しが備えられていて、屋根の上へ煙は無理なく抜けていきます。「やめようかと思ったんだよ、毎朝焚くの。効果があるかも良くわからないしな。」と所長は言いました。栗の薪を近隣の方から大量に譲り受けたらしく、それが無くなるまではやるか、と今も続けているそうです。無くなる頃にまた誰かが薪を持って来るんじゃないですか?と言ったら「そしたら続けるしかないな。」と笑顔で答えました。


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この現場ではカメラを持ち歩いて撮るという余裕があまり無く、なかなか撮れずに居ます。休憩中に撮ることはできるのですが気力が持たず、フィルムのカウンターも動かずに屋根は進んでいきます。言葉にして残すことは時間が経って後から思い出しつつできますが、写真は一度逃すと手遅れになるのが怖いところです。


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(屋根裏は宇宙かお化け屋敷か。どちらにしても生き物の気配を感じてしまう場所。)


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雨が怪しい中、仕上げの作業に現場へ行きました。軒の刈り込みをするためですが、途中で雨に降られ中断していました。その間、家主のご夫婦とお話をします。ご主人は、年に何度か屋根の夢を見るそうです。「(夢の中で)屋根が酷く崩れてしまって、どうしたものかとすごく不安になる」「夢でなくても、道の脇にススキを見れば、材料にならないかと想像してしまう」と言っていて、常に屋根は頭の片隅にあるようです。奥さんはこの日一つの電話を受けて、その相手は目が見えない、一人暮らしの親戚の女性だったそうで、「ふと頭に浮かんだ番号にかけたら、うちだったみたいなのだけど、茅葺の屋根を、目が見えるうちにもっと見れたらよかったと言っていた」と話してくれました。人が、茅葺きを大切にしたいと思う気持ちは、どれだけの苦労を背負っても、機能性や快適さだけではない、美しさに惹かれているのかなと、こうした会話の節々に感じます。雨は止んで灼熱の太陽の元、この現場の作業は終えました。


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(練習場所で)古茅をもってきて、ゆずりの上にいよいよ茅を葺いていきます。葺く厚み、重ね具合、縄のとる幅、がぎの押さえかた、傾斜のつけかた、どれ一つとっても感覚的で、基準は目と手で覚えなければならず、渡辺さんの動きと手の感覚を記憶しようと必死でした。


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練習場所で黙々と作業をしていると、いろんな人が話しかけてきます。職人はたまに様子を見にきてくれるし、シルバーのおじちゃんたち、蕎麦屋のおばちゃんたち、お客さんや鳥も蚊も賑やかしに来ます。みんな生き生きしていて本当に良い場所だなと感じます。私が何をやっているのか、どんなことを思ってここへ来たかなど、色々と興味を持って聞いてくれます。なるべく嘘の無いように返そうと、その度に頭を整理します。


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新しい現場に入りました。風土記の丘から1時間ほど車に乗ります。玉ねぎ農家さんで、玉ねぎを乾燥させるビニールハウスで茅ごしらえをします。「ビニールハウス…暑いのかな」と思いましたが、ハウスの壁はハンドルを回すと開閉可能で、ビニールの上には黒のシートを被せてあるので日中もそれほど熱が篭ることはありません。


作業中、依頼主のお父さんがビニールハウスに入ってきて、おもむろに玉ねぎの皮を剥き始めました。みんなが休憩中にも手を止めずに黙々と玉ねぎの皮を剥いているので声をかけてみると、「今年は長雨で腐って売りに出せないものを知人が欲しいと言うから」と、ダメな部分を除いているようでした。「帰りにあなたらも持っていきな。奥に小さいのがあるだろ。それも。」と言うので見に行って、「これですか」と大声で聞くけど返事がありませんでした。その後の話の中で、そのお父さんは全盲だと知りました。玉ねぎが腐っているかどうか、ハウスのどこに何があるのか、目がなくてもどうってことないよ、と言わんばかりの働きぶりでした。


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「茅をこしらえるのにこれだけ時間がかかるわけじゃん」と江戸さんが話を始めました。「他の地域では茅ごしらえをしないでそのまま葺いてる所もあって、その技術を身につけるのも方法として良くない?」と聞いて、反応に困ってしまいました。それが可能なら安価で早く修繕することができるけど、屋根の質が落ちるんじゃないかとか茅のゴミを増やすんじゃないかとか色々頭に浮んで、何より自分は茅ごしらえの時間がすごく大切な気がしていて、その文化が無くなることが怖いと感じたからでした。その時はうまく答えられず悶々としてしまいましたが、色んなことに疑いの目を持って話してくれると私も考えさせられます。


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お盆が明けて作業再開です。先週こしらえた胴切りを、3枚ずつ葺いていきます。練習場でやったことを、初めて現場でやることになりました。茅を他の職人と同じ厚さになるように注意しながら並べます。現場の空気は風土記の丘とは違い、とても緊張します。渡辺さんが見にきてくれて、「どうせ下がるからもっと上に並べたほうがいい」と教えてくれました。このくらい、と見せてもらって、それを全力で目に焼き付けます。


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(覚えきれない)


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(はしごも針金も熱くて火傷しそう)


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家の裏に竹藪があります。そこからまっすぐの竹を選んでのこぎりで切ります。不要な枝を取り除きます。ぐしで使うものはけんとうぎとちゅうぶちは丸のまま、いぼかくしは半分に割って使用します。そして竹簀用のものが必要です。竹簀は真竹3本ほどを使い、2cmほどの幅にたけわりで割きます。職人は均等になるように幅を調整しながら割りますが、難しそうです。割った竹の元と裏を交互に並べ、ぐしの寸法に合うように幅を決めて藁縄で編んでいきます。最後にいぼ結びで止めて竹簀の完成です。


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うらおしから取ったかな縄を使って銅線をとります。かな縄のねじれを緩めて二本取りにした銅線を挟み、紐を引っ張って銅線の先を裏おしに通します。かな縄が切れたり抜けたりしないように注意を払いながらもう一周銅線を通して仮で止めます。この工程がうまくいかなくて、「かな縄が切れたらぐしを崩すしかないよ」と職人に言われて、あまりに緊張して初めて、弱音が頭をよぎりました。焦らず集中しようとしますがスムーズに進まず、結局職人に助けてもらいました。


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ぐしが完成したのでいよいよ刈り込み作業に移ります。職人らが裏から始め、私が物を運んだりほうきでゴミを落としたりします。屋根の下では瀧田さんがそのゴミを集めて捨ててくれます。刈り込みの作業はこれまでも他の現場で見てきたので少しほっとします。初めての作業は覚えることに頭を使うので、この現場は初めてのぐし作業で毎日頭がパンク状態だったなと振り返ります。それでも風土記の丘での練習場でハサミをいざ握ってみるとわからないことばかりで、それを経験してまた職人の動きを見ると学ぶことがたくさんあります。やってみないと、わからないこともわからないから、手を動かしながら、見れるうちに職人たちの作業を見させてもらおうと思いました。


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仕上げ作業です。屋根の至るところに差しがやをした跡が残り、屋根に牛の縞のような模様ができました。色が違うだけで凹凸のあった屋根が綺麗な平面になって行きます。よく晴れた空に、雲と木の影とその屋根の模様が重なって、不思議な景色でした。最後に地面を掃除します。ゴミが除かれた屋根とお庭がまたすっきりとして嬉しくなります。足場もその日に崩され、綺麗になったところで、おうちの方達と写真を撮りました。みんな屋根を見て、「素晴らしいよ」と喜んでくれて、気持ちがよくなります。

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